グロービスMBAマネジメント・ブック 第一部要約 後編

今回は、先月に引き続いて、グロービスMBAマネジメント・ブックの書籍要約をお届けします。この記事は、その第二弾となる、第一部の後編です。

戦略策定プロセス

基本的な戦略策定プロセスは、通常の以下のような流れを辿る。必ずしも一方向の流れではなく、仮説・検証を繰り返しながら進んでいく。また、一度策定した戦略がある時点で成功したからといって、それで戦略策定が終わるのではない。経営環境が同じ状態に留まることはないから、環境変化に応じて戦略を見直し、再定義しなくてはならない。

戦略策定プロセス

戦略策定に要求される条件

優れた戦略を策定・実施するためには、「合理性と論理性」並びに「創造性と革新性」という2つの異なる条件を満たすことが求められる。
戦略策定では、事実を客観的に観察して論理的に分析、推論と事実の両面から問題の構造に迫り、対応・解決する方策を組み立てる、という場面において、合理性や論理性の発揮が求められる。
一方で、戦略の策定や実施に関わる人々を動かすには、信念や夢、リスクへの挑戦、既存組織風土打破、核心的見方など、人間的な側面に働きかける力が必要になる。
戦略が有効であるためには、合理性や論理性に加え、創造性や革新性なども体現しなければならない。

競争優位を築くための戦略

事業戦略や競争戦略の策定では、他社に対していかに競争優位を築くかが焦点となる。
ポーター教授は、競争優位の構築には、「コスト・リーダーシップ戦略」、「差別化戦略」、「集中戦略」の3つの基本的な戦略パターンがあるとしている。

競争戦略フレームワーク

様々な角度から分析する

経済性

(1) 規模の経済

一般的に企業のコストは、生産量に関わらず一定の固定費と、生産量に比例する変動費に分解できる。
生産量が増えると、単位当たりの変動費は一定であるが、単位当たりの固定費は低下する。このように、事業の規模が大きくなるほど固定費にかかるコスト効率が向上することを「経済の規模(エコノミーズ・オブ・スケール)」と言う。
規模の経済は、固定費だけでなく、変動費にも働いている。これは、開発・生産・調達・マーケティング・営業活動のあらゆる段階で考えられる。

(2) 経験曲線

現時点においてどれだけの生産量があるかという観点が「規模の経済」であるのに対し、現時点までの累積生産量すなわち累積経験値が増えるほどコスト低下に結びつくとする「経験曲線(エクスペリエンス・カーブ)」という考え方がある。
労働者の熟練による生産効率向上、作業標準化及び作業方法改善による生産性向上に加え、あらゆるコスト要素に累積経験が効くと言われる。

(3) 範囲の経済

企業が複数の事業活動を持つことにより、より経済的な事業運営できるようになることを「範囲の経済(エコノミーズ・オブ・スコープ)」と言う。
範囲の経済は、複数事業で経営資源を共有することによるプラスとマイナスの効果を正しく見極める必要があり、事業の選択を誤れば働かないことに注意が必要である。

外部環境

(1) マクロ環境分析

企業を取り巻く外部環境の中で、自社でコントロールできないが、企業活動に影響を与える要因を検証する。分析対象として代表的な項目として、「政治(Politics)」、「経済(Economy)」、「社会(Society)」、「技術(Technology)」があり、これらの頭文字を取って「PEST」と呼ばれる。

(2) 3C分析

マクロ環境よりもさらに個別具体的な分析を行う時のフレームワークとして「3C分析」がある。これは、外部分析に相当する「市場(顧客)(Customer)」と「競合(Competitor)」、内部分析に相当する「自社(Company)」の頭文字を取ったものである。

3C分析

(3) SWOT分析

外部環境を分析する目的は、市場における「機会(Opportunities)」を探り、自社にとっての「脅威(Threats)」を見つけ出すことにあり、内部環境では自社の「強み(Strengths)」と「弱み(Weaknesses)」を把握することに主眼が置かれる。これら4つの要素を組み合わせたものが「SWOT分析」である。

SWOT分析

業界

『5つの力』分析

事業戦略を立てる際のポイントは、企業をその環境との関係で見ることだが、業界の中での競争状態だけを見ていると、構造的側面を見落とすことがある。企業の収益性は業界内での競争力のみで決まるわけではなく、業界そのものの収益性にも影響を受け、業界の収益性は業界構造によって規定される。
このような観点から、業界構造を分析するときに役立つフレームワークが、ポーターの「『5つの力』分析(Five Forces Analysis)」である。5つの力とは、「新規参入の脅威」、「代替品の脅威」、「買い手の交渉力」、「売り手の交渉力」、「業界内の競合他社」を指す。
これらのうちどれが構造を決める重要な要因になるかは、業界によって異なり、分析することによって、業界の収益構造や競争の鍵を発見したり、将来の競争の変化を予測できる。

「5つの力」分析

アドバンテージ・マトリクス

業界の競争要因(戦略変数)の多寡という観点と、それらの競争要因が優位性構築につながる可能性の大小という観点で、事業を4タイプに分けて考える手法が、BCGが考案した「アドバンテージ・マトリクス」である。
競争要因が少ないということは、その手段が少ないことを意味し、勝ち負けが単純に決まるということであり、優位性構築の可能性が大きいということは、その競争要因によって他社に対して明らかな競争優位を獲得できることを意味する。

アドバンテージ・マトリクス

内部

バリューチェーン

内部分析の目的は、競合と比較したときの自社の強みと弱みを把握することにあり、それによって自社の優位性を生かす方向や克服すべき課題が見えてくる。
その分析に役立つのが、ポーターの「バリューチェーン(価値連鎖)」という考え方で、事業活動を機能ごとに分解し、どの機能で付加価値が生み出されているかを分析することで、事業戦略の構築や改善に役立てようというものである。

バリューチェーン

この分析では、諸活動を厳密に分類することが目的ではなく、それぞれの活動の役割、コスト、及び全体としての事業戦略への貢献度を明確にすることがポイントである。

コスト・ドライバー

戦略策定には、経済性の裏付けは欠かせず、最適なものにするには、下記のコスト・ドライバーがどのように自社のバリューチェーンに影響を与えるかを定量的に把握することが大切である。
ただし、全ての要素が大きな影響を与えるとは限らないため、状況や分析ニーズに合わせて重要な要素だけに絞り込んで分析するとよい。

コスト・ドライバー

戦略を考える上での制約

競争上の地位

同じ業界に属していても、企業が取りうる戦略は競争上の地位によって制約を受ける。コトラー教授は、企業をその地位に応じて、「リーダー」、「チャレンジャー」、「フォロワー」、「ニッチャー」に分類し、それぞれに応じた戦略を取ることが望ましいとしている。

競争上の地位

事業ライフサイクル

成熟期から衰退期にかけては、競争が激化して収益性が低下し、市場構成は新規需要から代替需要へと移り、商品知識を身につけた消費者は価格や製品比較に厳しくなることが多い。
技術革新も停滞し、新製品や新用途が現れにくくなり、競争要因がコストやサービスに移る傾向がある。このような状況になったら、企業は環境変化に即して戦略を転換させ、優位性を失った事業からの撤退や新たな事業創造を検討しなくてはならない。

成長期・衰退期の戦略

経営戦略トピックス

リソース・ベースド・ビュー

リソース・ベースド・ビュー(RBV)は、社内資源に目を向け、その有効活用を図るべく戦略を構築しようとする考えである。ここで言うリソースは、生産設備や個々の人材にとどまらず、コア・コンピタンスやケイパビリティ(組織能力)などの目に見えないノウハウやスキルも包含している。

バリューチェーンの再構築

イノベーションの影響で企業活動における付加価値構造が破壊され、新しいビジネスシステムへの作り直されることにより、これまで当然とみなされていた事業の定義やルールが根本的に変わることを、「バリューチェーンの再構築」と呼ぶ。
優位性を失い、収益性の悪化に苦しむような事態を避けるためには、変化を先取りし、新たな戦略を打ち出さなくてはならず、自社の事業がバリューチェーンの再構築の影響を受けるかどうかを把握し、新たな戦略を打ち出さなくてはならない。
そのためのチェックリストとして、BCGは以下の5つの問いかけが有効であるとしている。

  1. バリューチェーン全体の中でコストの割に価値の低い部分はどこか
  2. バリューチェーン全体の中で自社事業は顧客とどのような関係にあるか
  3. 自社の事業でネットワーク化の影響を受けるのはどこか
  4. バリューチェーンが変わることで、現在の戦略的資産のうち重荷となるものはどれか
  5. 新しいバリューチェーンではどのような新しい活動・能力が必要となるか

また、バリューチェーンの再構築は、新しく競争優位を築くチャンスとしてとらえることも可能である。BCGは、新しいビジネスの創出パターンを以下の4つに分類している。

バリューチェーンの再構築

グロービスMBAマネジメント・ブック 第一部要約 後編

https://blog.chaotic-notes.com/articles/summarize-globis-mba-management-book-part1-vol2/

作者

Hiroki Sugawara

投稿日

2024-08-19

更新日

2024-08-19

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